セクシュアリティやジェンダーについて公の場で語る上での約束の虹ミニストリー・ガイドライン(2022/07/28)

※このガイドラインは随時アップデートしていきます。
※ご意見や疑問は約束の虹ミニストリー(川口)にお問い合わせください。

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1. 自分の考えや経験が断片的であることを自覚し、表現する。
2. 言葉の政治性に配慮する。
3. 周りを頼り、助けを求める。

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1. 自分の考えや経験が断片的であることを自覚し、表現する。

 私たち一人ひとりに与えられているからだは一つです。私たちがそのからだをもって経験し、見聞きできることは限られています。世界で起こっているあらゆる出来事を断片的にしか経験できないのです。そして、その断片的な経験を通して形成される私たちの考えもまた断片的です。

 一部の人たちの断片的な経験や考えがあたかも普遍性を持っているかのようにふるまう時、誰かの存在がおとしめられたり、矯正されたり、抹消されたり、排除されたりします。ジェンダーやセクシュアリティにまつわる差別や迫害もまさにそのようにして起こってきました。

 私たちの考えや経験が断片的であることは、その考えや経験に価値がない、ということを意味しません。断片的であるということは、ユニークであり、貴重だということ。断片的だからこそ、それぞれが考えや経験を持ち寄って分け合うことが大切なのです。断片的だからこそ、あなたが声を上げ、あなたの声が多くの人に届けられることが重要なのです。


a. アプローチ① 主語の大きさを調整する:

「福音派は〇〇」「ゲイは〇〇」
   →「一部の福音派は〇〇」「私の知り合いのゲイは〇〇と言ってました」

※アウティングのリスク:
ジェンダーやセクシュアリティに関する立場や思想を個人と紐づけられる形で語ることが、アウティングになってしまう場合があるので、主語を小さく限定的にする場合にも注意が必要です。


b. アプローチ② 語尾を調整して、非断定的にする:

「福音派は〇〇」「ゲイは〇〇」
   →「福音派は〇〇だという意見を聞いたことがあります

        「ゲイは〇〇だと、私は感じました


c. 構造的・制度的な実態に言及する時など、主語を大きく設定し、断定的な語調を使う必要がある場合もある:

例)「キリスト教は男性中心の組織になってしまっている」
  「同性愛者は婚姻の権利をうばわれています」など


2. 言葉の政治性に配慮する。

 言葉の政治性とは、人びとが集まっているところで作られ使われるそれぞれの言葉に、それぞれの人が色々な思いや感情を託しているということ。 ある言葉は自己表現や連帯、政治的目的や社会変革を達成するために作り出されて率先して使われ、別の言葉はそれらを阻害するものとして使われなくなったり、警戒の対象になったりするということです。

 厄介なのは、言葉に託される様々な思いや感情、関係や目的は複雑に絡み合い、時に激しく対立しているということ。ある人たちは「オカマ」という言葉を誰かを侮蔑するために使い、ある人たちはそれによって傷つけられてその言葉を敬遠し、また別のある人たちはそのようなホモフォビックな社会の中で連帯していくために敢えて「オカマ」を名乗るというように…。ある人たちは「性同一性障害」という言葉を通して励まされたり、仲間と出会えたりした一方で、また別のある人たちはトランスジェンダーの非病理化を求める運動の中でその言葉の使用に反対を表明したりする、というように…。

 言葉を取り巻く状況は複雑に交差しつつも常に移り変わっていて、 その全容を把握することは不可能でしょう。けれども同時に、私たちが発する言葉によって誰かが深く傷ついてしまうかもしれない、偏見や差別が再生産されてしまうかもしれない、という現実も重く受け止められなければなりません。言葉に関する私たちの理解が常に断片的であることを認識するからこそ、言葉の政治性についてできる限り学び、公の場で言葉を語る度にその言葉の選択の適切さやリスクについて自問自答していくことが大切でしょう。


【気をつけるべき言葉の例】

※「 使うべきでない言葉」ではなく「気をつけるべき言葉」です。
※下線が引かれている言葉への言い換えを推奨しますが、絶対的なものではありません。

a. LGBT:「LGBTトイレ」「LGBT女性(男性)」「LGBT当事者」

b. 侮蔑的に使われてきた言葉:オカマ、オナベ、ホモ、レズ 、オネエ、ニューハーフ、バイ

c. ジェンダー化された言葉:女/男らしい、女/男っぽい、女々しい
  >>言い換えの例「一般的に女らしいとされる」「男っぽいとみなされがちな」

d. シスジェンダー・異性愛のような多数派の基準を当然視した言葉:
 普通、ノーマル、ストレート、「禁断の愛」

e. トランスジェンダーに関わる言葉:

 ①ミスジェンダリング(性別誤認)を避ける:彼女/彼、〇〇ちゃん/くん
 ②「体の性/身体的性/生物学的性」→「出生時に割り当てられた性
(性別を判断する生物学的基準は複数(性染色体、内・外性器の形状、ホルモン値 、 etc)存在し、出生時に医療的権威によって割り当てられる二分法的な性別(いわゆる、体の性)はその生物学的実態を反映できていません。また、そのように医療的権威によって恣意的・断定的に二分法的な性別が認定され、その基準によって治療や矯正の対象とされることの暴力性に異を唱えてきたトランスジェンダーやDSDsの人びとの政治運動の蓄積が存在します。)

 ②「心の性」
  →「ジェンダー・アイデンティティ性自認(性別に対する自分の認識・性同一性)」
(体の性/心の性という二元論が、体の性が医療的権威によって恣意的に割り当てられている実態や、ジェンダー概念や役割が社会の中で定義されたり価値づけられたり期待されたりしている実態を見えなくしてしまうという懸念があります。また、最近激化しているトランスバッシングの中で「自分で好き勝手に性別が決められるなんておかしい」という主張が繰り返されているため、そのような主張と関連づけられやすい「性自認」よりも「ジェンダー・アイデンティティ」を使おうという動きが一部のトランスジェンダーの人びとの間で起こっています。)

 ③「体の性と心の性の不一致」
  →「割り当てられた性別とジェンダー・アイデンティティ(性自認)が異なる
   「性別違和がある

 ④「FtM/MtF」(元・女性/元・男性というニュアンス)
  →「トランスジェンダー男性/トランスジェンダー女性(トランス男性/女性)

 ⑤「性同一性障害」→「性別違和gender dysphoria」、「性別不合gender incongruence」

 ⑥「性転換」
→「性別適合手術 gender affirmation surgery/sex reassignment surgery」、「性別移行」

f. DSDs:

性分化疾患(DSD: Disorder of Sex Development)やインターセックス /インターセクシュアルとも呼ばれたりします。疾患(Disorder)として病理化され、本人の同意を得ずに治療を施されることに反対・抵抗してきた政治運動の蓄積があります。また、英語圏で広く使われているintersexのカタカナ表記が性的な色合いが強いということで「インターセクシュアル」が使われることもあります。 障害や疾病を意味するDisorderをDifferences やDiverseに置き換えることでDSDs/DSD(Differences in Sex Development/Diverse Sex Developments) をそのまま使う向きもあります。

g. マイノリティの権利運動に対する反動の中で使われ始めた言葉:

 ポリコレ(棒)、キャンセル・カルチャー、フェミ

h. 昨今のトランスジェンダー・バッシングやトランス女性排除言説で使われる言葉:

 セルフID、トランスジェンダリズム、女装男性、ジェンダー・イデオロギー、
 ジェンダー・クリティカル・フェミニズム


3. 周りを頼り、助けを求める。

 1、2の項目を見て、気をつけるべきことの多さに圧倒され自信を喪失している方がおられるかもしれません。けれども、安心してください。すべての人の知識や配慮は常に断片的で、だからすべての人が同じ様に不安を持ち、そしてすべての人がかならず失敗するのです。

 誰にでもわからないことがある、誰もが失敗しうる。それを認めた上で、協力体制を作っていくことが大切でしょう。わからないことがあったら、別の登壇者に助けを求める。不安なことがあったら、オーディエンスに助けを求める。失敗してしまったら、率直に謝って、どうやったらそのような失敗を繰り返さないで済むか、登壇者とオーディエンスを巻き込んでの話し合いを始めていく。そのような協力体制を作ることが何よりも大切なのです。そのような協力体制があれば、あなたがすべてを背負う必要はなくなります。けれども同時に、そのような協力体制をつくるために、あなたの考えと経験と声が必要なのです。

a. アプローチ⓪仲間に頼る:

・当日語る・議論するトピックについて、事前に情報共有や意見交換をする場を設ける。

・当日失敗やトラブルが起きることを想定してサポート体制を作り、また、トラブル対応の際の要点や手順を確認しておく。

・発言や講演の原稿や要旨を、事前に登壇者や第三者に読んでチェックしてもらう。

b. アプローチ①他の登壇者に頼る(発言を通して):

 「〇〇と自分は思うんだけど、どうかな?」「△△さんの考えも聞いてみたいです!」
 「〇〇のことにそんな詳しいわけじゃないから、なんか気になることあったら言ってね。」

c. アプローチ②他の登壇者に頼る/他の登壇者を助ける(メモのやり取り):

 「今の発言でフォローするところあったら言って」
 「今の発言で〇〇と言っているように聞こえたけど大丈夫?」
 「今、△△さん『ホモ』って言ったよね汗。ちょっと、まず自分が対応するわ」
  というようなメモ書きを回す。

d. アプローチ③オーディエンスに頼る

 「〇〇について自分は詳しくないので、わかる方いたらあとで教えてください」
 「〇〇についてのご意見、質疑応答の時に是非聞かせてください」
 「〇〇について、今後もみなさんと一緒に学んでいけたらと思います」


約束の虹ミニストリー

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